百影堂のブログ

創作人形、あやつり人形、節供人形など…

「黒姫」~人形集第二集~05

05「黒姫」 1993 180mm

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  長野県の伝説。
 戦国の武将高梨政盛に、黒姫という娘があった。ある花見の宴でのこと、一匹の蛇が姫の側に寄って動かなかった。姫が酒を与えると美味そうに飲み、姿を消した。
 数日すると、一人の若者が訪ねて来た。わたしは大沼池の主だ、姫をさらうことはたやすいが、それでは礼にかなわぬから、こうしてひとのすがたで来た、どうか姫を嫁にもらいたい、と申し入れた。政盛は一計を案じ、明日わたしが馬に乗り、城のまわりを二一回まわるが、それについてくることができたら、姫を嫁にやろう、と約束した。
 翌日、政盛は城のまわりに刀を逆植えさせておき、馬を駆らせた。若者は付いていったが、次第に苦しくなり、人蛇の姿を現した。刀は大蛇の体を切り裂いたが、どうにか二十一回まわりきった。ところが政盛は、おまえのような化け物に姫はやれぬ、と言った。蛇は怒り、嵐を呼び、地震を起こし、山や池の堰を切り、洪水を起した。洪水は村々を押し流した。これを見た姫が、わたしはあなたの妻になるから、嵐をしずめておくれ、と天にむかって叫ぶと、姫の姿は消え、水は引き、嵐は止んだ。
     (『日本伝説集』武田静澄著 現代教養文庫 「黒姫」を参照。)